PCPエアーライフルの『命中精度に影響する要素』はいくつも有りますが、最も重要な要素は3つ有ります、
それは
①バレル(銃身)のジオメトリ(諸元)・精度
②バルブ(+レギュレータ)のエアー圧力と吐出量 その安定性
③ペレットの形状・重さ・硬さ・精度です。
今回は『PCPエアーライフルのバレル ジオメトリー(諸元)と命中精度・弾速の関係』についての一般論で 私の備忘録+私見です。
私が所持しているPCPエアーライフルはエアーア-ムズS510 口径5.5mm です、
この空気銃のバレルはロター ウォルサー社 Lottar Walther(LW)、ドイツ、(一般的にはワルサーと呼ばれています)の
『ランド径5.46mm・チョーク付・長さ494mm・ツイストレート450mm・右12条ライフリング(スタンダードライフリング)・外径12mm』の物です。
500$程度以上のPCPエアーライフルのバレルとしてはワルサーバレルが最も普及していると思います。(S510:下図のno55がバレル)
バレルのジオメトリー(諸元)と弾速&命中精度の関係
1インチ=25.4mm として メトリックで計算
以下はワルサー社のエアーライフル用バレルブランクの資料(Lothar Walther–Gun Barrel Blanks–Airgun Barrels)+私が調べた情報+私見です 。
口径に対するバレル内径(ランド径・ボア径)とライフルミゾ径(グルーブ径)
・口径 ⇒ ランド内径 、 ミゾ外径 単位mm (ワルサーバレルの場合)
4.50⇒4.46、4.62
5.00⇒5.00、5.16
5.50⇒5.46、5.62
(私が使用しているペレットのヘッド径は5.52。計算上ヘッドに0.03mm食い込む)
6.35⇒6.29、6.46
7.62⇒7.58、7.78
・バレル内径(ランド径)部の内径寸法・真円度・円筒度・面粗度 ⇒ この精度がよければ命中精度が上がる【最も重要なポイント】
(高精度のバレルはガンドリル⇒ガンリーマ加工の後にホーニング加工やラッピング加工し精度向上&ツールマーク除去をし さらに加工時の残留応力を除去するため応力除去焼鈍も追加している)
バレル内径は上記寸法に対し数μ(ミクロン=1/1000mm)の幅が有りますし 製造ロットでも寸法は変動します、一方ペレットの寸法も公差幅があるので同じペレットのヘッド径でも製造ロットによってバレルとのベストマッチが変わります。
→自分の銃とベストマッチするペレットが見つかれば その製造ロットNOの物を買いだめしておくのが理想ですが、現実は難しい。
・ミゾの寸法
ミゾ外径:出来るだけミゾ外径を小さくしてエアー漏れ量、ミゾにペレットが食い込む量(変形量)を最小化
ミゾ幅:ワルサーは公表していません。 また 条数(ミゾの本数)を12としている
浅いミゾは ペレットのバレル内面への密着性が上がり、ペレットがライフリングミゾによって変形する量を最小化できるので命中精度が向上する
(ライフリングの製造方法にもよる:フックカッティングやボタンライフリングの方がハンマーフォージドライフリングより一般的にはミゾが浅い)
ペレットが重く(口径が大きく)なるとミゾ深さが深くなる(0.08⇒0.10mm)
バレル長さ・外径
・一般的なバレル長さは250~700mm
ワルサーのブランクは4.5~6.35口径は605mm、7.62口径は712mm、各銃メーカの仕様に合わせてカット。
この程度の長さの範囲なら バレルは長い程 弾速が高くなるが、命中精度には影響しない、(バレル長さが非常に長くなると弾速は落ちる)
但し 『遠射の命中精度は ペレットが空力上安定する範囲であれば 弾速が高い方が有利です』。(ペレット形状・重さ、射撃距離により最適な弾速は変わります、射撃競技用10mエアライフルの弾速は170m/s程度と遅い)
FXのSTバレルの長さが5.5mm 500mm 、6.35&7.62mm 600mm ですが、 命中精度が高いとの評判のSTXバレルでは それぞれ 600mm、700mm と100mmバレルを延長した物を設定したのは 遠射での命中精度向上のため と考えられます。
取り回しの良いS510カービンのバレル長さは395mmで 私が所持しているS510ライフルのバレル494mmより短いですが、通常の距離での命中精度は変わりません、弾速が少し遅くてマズルエナジーが15%程度落ちるだけです。
追記)
長いバレルは振動(共振)の影響を受けやすい、及び トリガーがリリースされてペレットがマズルから発射されるまでの時間長い(銃が動く)ため 短いバレルより命中精度の点で不利。但し短いバレルは重いペレット(またはスラッグ)を適切な速度に加速出来ない。
・バレル外径 :
口径 : 外径 mm(ワルサーバレルの場合)
4.50 : 9、10、12、14、15、16
5.00 : 12、 15、16
5.50 :10、12、15、16、17
6.35 : 12、 15、16
7.62 : 17
太い外径の方が振動が少ないため 命中精度が向上、 但し重くなる。
一般的には外径12mm、精密射撃用は16mmが多い。
1mm違いであるのは共振対策 と考えられます。
ライフリング・形状
①スタンダード(コンベンショナル) ライフリング
スタンダード_ライフリングの他に
②ポリゴナル(多角形)
分類上はポリゴナルになりますが FX社のスムーズツイスト(ST)、スムーズツイスト_X(STX)も 有ります。
参考):FXスムーズツイスト(STX)バレルについては私のブログ「FX STXバレルについて」を参照。
今回はスタンダード形状のライフリングについてのみについてのみ述べます。
ライフリングのツイストレート
ツイストレートとはライフリングミゾが1回転する長さです。
条数とはライフリングのミゾ数のことです。
ワルサー社の場合
口径 :条数 、ツイストレート (mm)
4.5 :12 、450
5.0 :12 、450
5.5 :12 、450
6.35 :10 、450
7.62 : 6 、406
・同じ出力、同じペレットの場合 ツイストレートが長い程 弾速が上がる。
・同じペレットの場合 命中精度が最も良くなる適正なツイストレートがある『口径5.5mmなら406~457mm程度(スタンダード_ライフリングの場合)』。
・同じ口径の場合 ペレットが重くなるほどツイストレートを短くしないとペレットが安定しない。
・口径やライフリング形状(スタンダード、ポリゴナル)によって適切なツイストレートが有る。
高出力エアライフルで通常より重いペレット(orスラッグ)を使用する場合はツイストレートを短くしないと命中精度が悪い。
参考:こんなの有りました
ライフル銃用の弾丸(ボートテイル)のツイストレートの計算ソフト ラウンドノーズ(ドーム)型のペレットは計算できませんが、ライフル銃の場合も同様で 重い弾丸はツイストレートを短くする傾向は同じです。
・ライフリングミゾの仮想中心とバレル内径の仮想中心のズレ量、ツイストレートの誤差、各条のピッチ誤差を最小化すると命中精度が向上
→ライフルリングの加工方法による、一般的には塑性加工より切削加工の方が精度が高い(コールドハンマーフォージドやボタン_ライフリングよりフックカッティング_ライフルリングの方が精度が高い。ワルサーはボタン_ライフリング)
チョークの有無
『マズル側 20~50mm部に 0.01~0.05mm口径を絞る(小さくしている)ことをチョーク』と言います。
ワルサーバレルはチョーク有・無の2種類有り、チョーク付は0.05mm絞っている、先端からの長さは公表されていません。
ライフル銃の場合 高精度バレルならチョークは不要ですが、
エアーライフルの場合、弾丸の形状(一般的にはラウンドノーズ型)がライフル銃の弾丸と異なり、弾速も遅く バレル内の挙動(振動)が異なるため、高精度バレルでもチョークが有った方が命中精度は高い。
最後に
最新式のFX社のPCPエアーライフル、インパクトやクラウンはバレル(STXバレル)が簡単に交換できる構造でかつ 各種の出力調整機構(ハンマースプリングテンション、レギュレータ圧、他)が有るので 口径やツイストレートの異なったバレルを換え銃身として申請して承認されれば 色々な形状・重量のペレットが使えます(狙う獲物によって変えられる)、但しスコープ調整は必要です。
今後PCPエアーライフルはこのようなタイプの銃が増えていくようです。
尚 ワルサーバレルブランクはアメリカで.22口径(5.5mm)なら112$(12400円程度)で売っています、バレル交換式でないPCPエアーライフルについて 別の諸元バレルに交換する場合は必ず地元の警察署生活安全課に事前に相談、承認を貰ってから銃砲店に依頼して実施して下さい。
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