
昨年(2024年)にモーラがナイフの鋼材・熱処理のグレードをSGMというコードで公開しましたが、現時点 国内ではあまり紹介されていないので、
ナイフマニア向けに この内容を独断と偏見で説明します。
尚 情報源は画像を含め モーラのウエブサイト『Morakniv』のEnglish版からの引用 です。
SGMコードとは
SGMから何が分るか
このコードから ナイフの材質、製鋼メーカ、製鋼メーカの国、どんな熱処理を実施しているか が分ります。
SGM® =Steel Grade Mora
コードは10種類
以下 10種類有ります。
SGM®S-ASE101
SGM®S-ASE111
SGM®S-BSE101
SGM®S-BSE111
SGM®S-CSE101
SGM®S-CSE111
SGM®C-DDE101
SGM®LC-EFR101
SGM®B-FSE101
SGM®C-GDE000
1桁目: 鋼材の種類
SGM®S-ASE101
S=Stainless steel(ステンレススチール)
C=Carbon steel (カーボンスチール(炭素鋼))
LC=Laminated Carbon steel(ラミネートカーボンスチール)
B= Boron steel(ボロンスチール)
2桁目: 材質 製鋼メーカ
SGM®S-ASE101
A = 12C27 Alleima(アレイマ(旧サンドビック))
B = 14C28N Alleima (アレイマ(旧サンドビック))
C =10C28Mo2 Alleima(アレイマ(旧サンドビック))
D = C100S C.D. Wälzholz GmbH(ヴェルツホルツ)
E = S235/100CR6 Bonpertuis (ボンペルテュイ)
F = BORON (ボロン) 27Cr SSAB
G = SPRING(スプリング) C75 QT C.D. Wälzholz GmbH
3桁&4桁目: 製鋼メーカの国
SGM®S-ASE101
SE = Sweden (スウェーデン)
DE = Germany (ドイツ)
FR = France (フランス)
5桁目: Hardening(焼入れ)の有無
SGM®S-ASE101
1 = Yes
0 = No
6桁目: Cryo(クライオ処理)の有無
SGM®S-ASE101
1 = Yes
0 = No
Cryo=Cryogenic treatment(クライオジェニック)= super subzero treatmennt(超サブゼロ)のこと
一般的には-150℃以下に急速に冷却して硬度向上、耐摩耗性向上、寸法安定性を向上させる処理。
また0~-150℃程度(-100℃、-130℃等定義はいろいろ)での処理はサブゼロ処理と呼ばれています。
(クライオ処理、超サブゼロ処理、サブゼロ処理の処理温度区分の明確な規格が現時点無い)
高精度なライフル銃のバレルはクライオ処理されています。
国内の中高級品のステンレス包丁はサブゼロ処理(-80℃)を実施している場合がかなり有ります。
7桁目: Annealing(焼戻し)の有無
SGM®S-ASE101
1 = Yes
0 = No
Annealingの意味は焼鈍ですが、これはTempering(焼戻し)と表現する方が適切と思います。
以下 本文では焼戻しとしています。
本件 海外のナイフフォーラム等でも指摘されています。
モーラの代表的なナイフの鋼材・熱処理についての紹介
SGMには含まれませんが公称硬度(ロックウエルCスケール)も記載します。
一部コメントも記載しました。
ステンレス系
Garberg(S)
SGM®S-BSE111
鋼材(メーカ・国)=ステンレス鋼_14C28N(アレイマ・スウェーデン)
熱処理=焼入れ+クライオ処理+焼戻し
公称硬度(HRC)=58
コメント:クライオ処理していますね!!!
Companion HeavyDuty(S)
SGM®S-ASE101
鋼材(メーカ・国)=ステンレス鋼_12C27(アレイマ・スウェーデン)
熱処理=焼入れ+焼戻し
公称硬度(HRC)=56.5
刃厚=3.2mm(コンパニオンと刃厚のみ異なる)
Companion (S)
SGM®S-ASE101
鋼材(メーカ・国)=ステンレス鋼_12C27(アレイマ・スウェーデン)
熱処理=焼入れ+焼戻し
公称硬度(HRC)=56.5
刃厚=2.5mm
Kansbol (S)
SGM®S-ASE101
鋼材(メーカ・国)=ステンレス鋼_12C27(アレイマ・スウェーデン)
熱処理=焼入れ+焼戻し
公称硬度(HRC)=56.5
Companion Fishing Fillet 090 (S)
SGM®S-ASE101
鋼材(メーカ・国)=ステンレス鋼_12C27(アレイマ・スウェーデン)
熱処理=焼入れ+焼戻し
公称硬度(HRC)=56.5
刃厚=1.3mm
コメント:フィッシングナイフは使用環境から錆びやすいが 鋼材は耐食性が高い材料では無く普通の12C27を使用
Skinning Hunting (S)
SGM®S-CSE111
鋼材(メーカ・国)=ステンレス鋼_10C28Mo2(アレイマ・スウェーデン)
熱処理=焼入れ+クライオ処理+焼戻し
公称硬度(HRC)=56.5
コメント:耐食性の高いステンレス鋼である10C28Mo2を使用しクライオ処理も実施
Rombo BlackBlade (S) Ash Wood
SGM®S-CSE111
鋼材(メーカ・国)=ステンレス鋼_10C28Mo2(アレイマ・スウェーデン)
熱処理=焼入れ+クライオ処理+焼戻し
公称硬度(HRC)=56.5
コメント:耐食性の高いステンレス鋼である10C28Mo2を使用しクライオ処理も実施。
キッチン(クッキング)ナイフ系は10C28Mo2を使用するようです。
Finn BlackBlade (S) Ash Wood
SGM®S-ASE111
鋼材(メーカ・国)=ステンレス鋼_12C27(アレイマ・スウェーデン)
熱処理=焼入れ+クライオ処理+焼戻し
公称硬度(HRC)=58
コメント:12C27にクライオ処理をすることにより硬度をHRC1.5ほどアップ。
同じアッシュウッド系の一般的なナイフ形状のWit、Lok も同じ鋼材・熱処理です。
この価格なら ガーバークのステンレスと同様に14C28Nにクライオ処理を選択しなかったのが不思議です?
炭素鋼系
Garberg BlackBlade (C)
SGM®C-DDE101
鋼材(メーカ・国)=炭素鋼_C100S(ヴェルツホルツ・ドイツ)
熱処理=焼入れ+焼戻し
公称硬度(HRC)=57.5
Companion HeavyDuty (C)
SGM®C-DDE101
鋼材(メーカ・国)=炭素鋼_C100S(ヴェルツホルツ・ドイツ)
熱処理=焼入れ+焼戻し
公称硬度(HRC)=57.5
Pro Robust (C)
SGM®C-DDE101
鋼材(メーカ・国)=炭素鋼_C100S(ヴェルツホルツ・ドイツ)
熱処理=焼入れ+焼戻し
公称硬度(HRC)=57.5
Classic No 1/0 (C)
SGM®C-DDE101
鋼材(メーカ・国)=炭素鋼_C100S(ヴェルツホルツ・ドイツ)
熱処理=焼入れ+焼戻し
公称硬度(HRC)=58.5
コメント:同じ炭素鋼C100Sでも硬度が他よりHRC1ほど高い(誤差の範囲か?)、クラシックNo2,No3も同様。
ラミネート炭素鋼
Woodcarving Knife 120 (LC)
SGM®LC-EFR101
鋼材(メーカ・国)=ラミネート炭素鋼_S235/100CR6(ボンペルテュイ・フランス)
熱処理=焼入れ+焼き戻し
公称硬度(HRC)=58.5
コメント:低炭素鋼のS235材で炭素1%のクロム鋼100CR6材をサンドイッチ、焼入れすると炭素量の高い中心材のみ焼きが入る、
このラミネート鋼材は木工ナイフのみに使用しています。炭素鋼C100Sより硬度がHRC1ほど高い(クラシックナイフ系除く)。
ボロン鋼
Lightweight Axe (B)
SGM®B-FSE101
鋼材(メーカ・国)=ボロン鋼_27Cr(SSAB・スウェーデン)
熱処理=焼入れ+焼戻し
公称硬度(HRC)=公表無し
刃厚=6mm
コメント:モーラが製造している唯一の斧、この鋼材がボロン鋼なのは 恐らく 刃厚が6mm有り 現状の炭素鋼ナイフの熱処理設備を使って品質を確保するためには
より焼入れ性の高い材料にする必要が有ったが、同じ焼入れ性でコストを考えると合金鋼よりボロン鋼が有利なためと ボロン鋼で他社と差別化を図るため思われる。
27Cr主要成分はSSABのデータシートより(%) C=0.24~0.30、Si=0.10~0.30、Mn=1.10~1.40、Cr=0.30~0.60、B=0.0008~0.0050。
炭素(C)が0.26%と低いのでこの斧の表面硬度は余り高く無いが心部まで焼きが入っていると思います。
スプリング炭素鋼
Insulation Knife 1442 (C)
SGM®C-GDE000
鋼材(メーカ・国)=スプリング炭素鋼_C75 Q T(ヴェルツホルツ・ドイツ)
熱処理=モーラでは無し となっていますが、 材質記号にQTが付いているので 製鋼メーカで焼入れ焼戻し済の圧延鋼帯と思います。
公称硬度(HRC)=47.2
刃厚=1.0mm
コメント:断熱材や防音材を切断するための薄刃のナイフ
私見
公開した理由
海外のナイフ系のフォーラムでモーラが使っている鋼材が 繰り返し議論されていて 問い合わせも有り、
この際 モーラとして 間違えた情報の拡散を防ぎ かつ ブランド戦略上 公開した方が良いと 考えたのでは?
但し 公開した内容は一般的な項目だけです。
現時点 SGMコードはナイフその物 やパッケージに記載されておらず あくまでナイフマニアや 少しナイフに興味が有る人のみを 対象にしている と思われ
今後の動きを注視していきたい。
SGMから分ったこと
材質の正式な公開だけで無く 製鋼メーカや国を公開したのは ナイフユーザーに対して信頼感を上げたと思う、
なぜなら同じ材質でも製鋼メーカによる品質のバラツキが大きいから。(製鋼メーカで技術レベルが分る)
炭素鋼(カーボンスチール)ブレードは 全て同じ材質C100S(1.0%炭素鋼)で 同じ熱処理で有ることが分った、これらはコンペティティブな製品と思います。
違いはブレード(タング含め)サイズ・形状・コーティングのみ、
多少研ぎも違うかもしれないが、 ガーバークの炭素鋼モデルが バカ売れすれば モーラは間違いなく儲かる。
ステンレスブレードは 錆びやすいフィッシングを含め基本(廉価版)は12C27材で 少し高級品になるとクライオ処理をして少し硬度を上げている。
14C28Nは中高級品ナイフに使用、 クライオ処理してものは高級品に使用。
10C28MO2は耐食性が高いので主にキッチン系のナイフに使用、 クライオ処理したものは高級品に使用。
モーラは公称硬度を公表していますが はっきり言って 鋼材成分や熱処理条件のバラツキ、ナイフの部位 で硬度は変わります、通常HRCで+1から-1程度はバラツキます、
ステンレス、炭素鋼問わず 宣伝戦略上カタログ値のみ多少変更して 表示していると 思います。但し 同じ焼き戻し温度ならクライオ処理した方が硬度は上がりますし、
焼き戻し温度を下げれば硬度は上がります。
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