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【斧 備忘録】Swedish Hand Forged Axes 『斧製造の秘密は?』

【斧 備忘録】Swedish Hand Forged Axes 『斧製造の秘密は?』

今回は斧についての第二回目です

Swedish Hand Forged Axes について 現在稼働している 2つの工場 Gransfors Bruk と Hults Bruk についての紹介(ヨウツベ)と

これらを見て『斧製造の秘密』についての私見をまとめた【備忘録】です。

 

2018-5-27 追記 : 旧ウエッタリングス(Wetterlings)の工場でグレンスフォシュ ブルークの斧を数種類製造していることが分かりました、Gransfors Bruk は2カ所の工場で生産。

 

 

 

 

Gransfors Bruk と Hults Brukの工場について

 

 

 

 

 

Gransfors Bruk の工場

ホームページでの製造工程の説明

Axe Forging at Gransfors Bruk The Process Step by Step       20017/9/26に公開

Gransfors  Yxsmedia 2017/2/5に公開

Gransfors Bruk-Hand forged axes since 1902 2016/6/13に公開

#2schwederenbruckerl Gransfors Bruks Axesch miede    2013/5/23に公開(ドイツ語です)

 

 

 

 

Hults Brukの工場

(Hults BrukはHultafors傘下の会社です、現在  親会社のHultafors、自社のHults Bruk、他社OEMのHusqvarnaブランドの斧を製造しています)

ホームページでの製造工程の説明は有りません。

Hults Bruk  Axe forging   2015/7/7に公開

Hultafors Axes to rely on (Factory in Hults Bruk)  2012/12/17

 

 

 

 

 

 

Swedish Hand Forged Axes  :斧製造の秘密は? 私見

 

 

 

 

 

Gransfors Bruk を例に 斧製造について 工程順に説明します +私見。

1.鋼材

Gransfors Bruk が公表していることは以下のことです、
ローカルのスクラップを原材料にするいわゆる電炉メーカ(これに対し鉄鉱石から作るメーカを高炉メーカと言います)のOvako Steel社の材料、炭素鋼で炭素量C=0.55% SS(スウエーデン)規格には無く、一般入手できない材料。鋼材形状は角材。
電炉材にこだわっているのは環境に優しいからです、スウエーデンのメーカは環境と安全をベーシックポリシーにしている ところが多いです。

 

2018-6-4 追記 : 新日鉄住金(2019年4月~日本製鉄に社名変更)が『OVAKO_STEEL』を買収完了したと発表しました、新日鉄住金の特殊鋼のグローバル戦略に巻き込まれることなく いつまでも炭素綱刃物鋼材の製造は続けてほしい と思います。

 

Wetterlings は 電炉材、C55相当(炭素量 C=0.55%) にSi(シリコン) Mn(マンガン) V(バナジウム)を添加した材料と公表。

Hults Brukはスウエーデン炭素鋼で自社の専用材 としか公表していません。Husqvana は現在Hults Bruk、数年前まではWetterlingsでOEM生産。

C55は 日本で言えばS55Cで普通に市中に流通しており 割込みでは無い全綱の斧や鉈に使われています、アメリカで言えば1055材です、この材料はコールドスチールが斧に使っています。

鋼材の規格は幅があります、特にS55C等の炭素綱は成分規定範囲が広く、市中材をそのまま使うと製鋼チャージが変わったり、高炉材、電炉材で熱処理品質がバラツキます、特にシビアな熱処理が有る場合は各使用メーカが鋼材購入仕様書で成分他を細かく規定して使用するのが普通です。

Ovako SteelのC55(0.55%炭素綱)の資料 を見ると興味深いことが分かります。

・この資料にあるC55材 熱処理のバラツキを押さえるため 焼き入れ性の規定があります(Hardness(HRC)と Distance(mm)のグラフのバンド)。

電炉材はスクラップが原料のためCr(クロム)、 Ni(ニッケル)、 Mo(モリブデン)、が混じり高炉材より一般的には焼き入れ性は良い(焼き割れし易い)です、Ovako SteelのC55はCr+ Ni+Moを0.63%以下としC、Si、Mnも含めて規定された焼き入れ性のバンド内に納めるように調整。

・この資料に510A(炭素量C=0.48~0.55%+V=0.1%)という材料が有ります。

この材料には清浄度すなわち介在物(inclusions)の規定が有ります、介在物は金属の破壊の起点になるため これを規定するは高強度が要求される部品です。Wetterlingsは炭素C=0.55%にV(バナジウム)を添加した材料を使用していたと言っていますので、
Gransfors Bruk はこの510Aの炭素量を0.55%に上げたオリジナル仕様の材料を使用しているのかも知れません。

斧にここまでの材料が必要かどうかは分かりませんが、スウエーデン製以外の斧との差別化をはかるため あえて 清浄度の高いスウエーデン炭素綱を使用している可能性は有ります。Hults Brukも同じ材料もしくは近い材料を使用していると思います。

なにせ Swedish Hand Forged Axesの炭素鋼材 は Ovako Steel しか製造していませんので(量は2社で年間200t程度と推定)。

この材料のレベルなら 日本の特殊鋼を製造している電炉メーカでも製造可能です、斧用のスウエーデン炭素綱は特別な材料では有りません。

参考: 日本の場合 炭素綱にV(バナジウム)を添加した鋼材は非調質綱(素材焼き入れ・焼戻しを省いても強度を出せる材料)として非常に普及しています、エンジンのクランクシャフト・コンロッドは100%この材料です、但し鍛造加熱温度、鍛造後の冷却速度(空冷)の管理は必要です。

鋼材で重要なことの一つに 製鋼メーカのブルーム(CC:連続鋳造)もしくはインゴット(IC:インゴット鋳造)の圧延方向断面積と角材の断面積比 鍛錬比がどれだけあるか(これについては不明) も 斧頭の鍛造工程前の材料の段階で鍛錬されていれば より強靱な斧頭に成ります

また 斧用の鋼材でやっかいなのは「特殊サイズの角材」(通常の平鋼サイズ以上)であることです、普通に流通しているのは丸棒なので「特殊サイズの角材」は高くなりますし製造できるところが限定されます、Ovako Steelは異形圧延もやっているので角材製造も特に問題無いようです。

この辺の事情から Swedish Hand Forged Axesの炭素鋼材が Ovako Steel 1社になった理由と考えられます。

 

 

 

2.加熱・鋼材切断

Gransfors Bruk は角材を誘導加熱(IH)しシャー切断、バッチ炉で角材の先端のみを加熱している映像も有ります(角材断面積の大きな物?)。それに対しHults Bruk は角材を束ねて切断機で切断してからバッチ炉で加熱している。
省エネの観点と鍛造加熱温度管理の点で誘導加熱のGransfors Brukが有利、加熱温度は1200℃、炭素綱の加熱温度としては普通。バッチ炉加熱だと材料がオーバーヒートになりやすい(結晶粒度が肥大化)。

 

 

 

3.鍛造

Gransfors Bruk 、Hults Bruk 両方とも同じようなフォージングプレスと型を使い、出来るだけバリを出さない鍛造方法、成形工程も基本同じ、斧頭の形状と「アイ」の形状(断面が楕円)、位置関係の精度を出すのが難しいと思います。違うのは Gransfors Brukはワンヒート(加熱1回)で一人作業、Hults Brukはツーヒート(加熱2回)で二人作業(フォージングプレスに対向して)、それとGransfors Brukは最初のアイ部分の穿孔工程と最後付近の刻印工程で型に離型剤を使用しているが、Hults Brukは使っていないように見えます(離型剤を入れている缶やノズルが見えない)。鍛造工程での成形精度を一定レベルにするにはツーヒートのHults Bruk方が有利、加熱炉1基で最初の加熱と2回目の加熱行って熱効率をアップ。ワンヒートで成形するGransfors Brukの作業者は高い技能が必要(技能が無いとキチントした形状にならない)。時間あたりの出来高はHults Brukの方が上。省エネではGransfors Bruk が有利。両社とも作業場の床には木製すのこを敷いている、作業者は疲れにくいが 防火上大丈夫かな と思います。

参考 : 和斧は型を使用せずに成形している、いわゆる自由鍛造、このため 斧頭の形状と「ひつ(アイ)」の形状(断面が長方形)、位置関係の精度を出すのには高度な技術が必要で かつ鋼を割込みする技術も必要です。

成形工程はシャーで角材を切断し(Gransfors Bruk)→スケールを落とし→アイの穿孔:材料を型に対し水平方向に強く押しつけて材料に対するアイの位置を一定化、上下から穿孔している→斧頭の縦形状の荒成形→斧頭の横形状、ブレード荒成形(徐々に広げていく)→アイにクサビ(兼アイの型)を斧頭の上から打ち込み かつ斧頭の側面をプレスしアイ形状を整え同時に肉厚の薄い側面を鍛錬しクサビを抜く、これを斧頭の下からも行う→(Hults Brukは再加熱)→中仕上げ成形:荒成形の工程を繰り返しながら型に当てる位置を変ていく→仕上げ成形:先の中仕上げの工程繰り返しながら型に当てる位置を変ていく→刻印し→ブレードの形状を目視チェックし曲がっていたらハンマーで修正し斧頭を置く台に1個毎に置いていく。Hults Brukは目視チェック無しで バッカンに入れている。鍛造打ち上がり温度はワンヒートのGransfors Brukの方が低い。

 

アイの最終仕上げ成形は温度が下がった状態で行っています、このためアイの長辺のブレード(刃)側の下側(eyeのheel側) はシャープエッジになるので ここにクラックが入る可能性大、ワンヒートで鍛造しているGransfors Brukは不利です。
クラックが有っても熱処理でクラックが広がっていなければ直ぐに壊れることは無いと思います。斧頭全体を焼き入れする場合は ここ起点で焼き割れする可能大、実際は斧頭の先端の刃部分しか熱処理は行っていない。

それと斧頭が小さい物は肉厚が薄く変形やワレ、スケール巻き込み、温度低下で所定の形にならない等が発生し易いので 技術力と手間がかかります(不良になる確率大)、小さな斧の値段が高いのはこのため。

 

 

 

4.荒グラインダー

鍛造時のスケール落しと刃部(ブレード)部分の脱炭層(加熱すると鋼材の炭素等の成分が酸素と反応し抜けてしまい、やわらかくなって焼きが入らない)を除去するため。

本来 単純な炭素綱を使用しているなら この工程の前、鍛造後に素材調質工程(焼入れ焼戻し)を入れた方が 後の熱処理品質が安定する。

V(バナジウム)入り鋼材で素材調質工程を省いているのかも知れません。

 

 

 

5.熱処理
斧頭の先端部分(刃部、ブレード)のみを誘導加熱し流水での水焼き入れ(いわゆる高周波焼入れ)、加熱温度は820℃、通常より少し高い、Ovako SteelのC55材の資料を見るとAC3点(金属組織がオーステナイトになる温度)は750℃、加熱温度を高くしているのは 誘導加熱は昇温速度が高いのでAC3点が上にシフトするためです。

0.55%炭素綱を水焼入れしているのがミソです、焼き割れのリスクは有りますが『がっちり焼きが入ります』。それも刃部のみ。

スプレー焼入れすると割れるので流水での焼入れにしていると思います、安定した熱処理品質を保つには①材料の焼入れ性管理②鍛造加熱温度③熱処理の加熱温度④焼入れ時の水温や水の管理(水中の残存空気が影響)等です。

斧頭全体では無く刃部(ブレード)のみを焼入れしているのは、衝撃がかかっても斧全体が壊れることが無い(日本の鋼の割込み鍛造斧に近い)かつ 部分加熱で省エネとなる。

焼き戻しは 炉で195℃ 60分 温度は通常より少し高い、硬度をHRC57(ロックウエルCスケール)と少し落して 靱性を上げるため と思います。

Gransfors Brukのホームページでの熱処理の紹介で Hardening(硬化) and  Annealing(焼鈍し) と言っていますが これは間違いでHardening and  Tempering(焼戻し) が正しいです。

Hults Bruk の熱処理情報がほとんど有りません、 が 焼入れは刃部のみは間違い無いようです、焼き戻しは油中かも?。

 

 

 

6.仕上げ研ぎ

セラミックボールでのショットブラストでバリ取りをしてから 硬度の確認をして ハンマーテストで鍛造時の割れ、熱処理での焼き割れ の確認。

それから仕上げのグラインダーでキチント刃を付けて 最終はバフ仕上げ。

Hults Bruk の仕上げラインはスタンダードとプレミアムが有ります、プレミアムライン(Hultafors のClassicシリーズも生産)はGransfors Brukと同じですが、普及品製造のスタンダードラインはグラインダーにロボットを使用しています、だからOEMで生産しているHasqvarnaの斧が安く出来るのですネ(モーラと同じやり方です)。

 

 

 

 

7.防錆・ハンドル(シャフト)付け

斧頭は撥水性防錆油につけられ てから 斧頭にシャフトを圧入 接着剤を付けた木製クサビを打ち込み 斧頭のエッジの延長線上にハンドル中心がきているか確認し 再度圧入、斧頭上部の余分なハンドル材を取って 打ち込んだ部分を少しグランダーで仕上げて完成。

斧頭の重い物には鋼製のクサビも打ち込みます。

 

 

 

 

8.品質管理:最終検査・レザーシース装着・小冊子

最終検査後 レザーシースを斧頭に装着し小冊子をつけて 梱包して出荷。

Gransfors Bruk やHultafors のClassicシリーズは仕上げ研ぎ工程以降に手間をかけているので価格が高いということです。

 

 

 

 

斧についての小冊子

 

 

 

Gransfors Bruk の斧を買ったらついてくる小冊子です、

斧を買わなくても無料でダウンロードできます、日本語版 pdfファイルで容量は15.4MBと大きいです。

斧に興味のある方、現在斧を使っている方、

斧のこと、薪割りについて 非常に参考になりますので 一読をオススメしますヨ。

 

 

 

最後に
Swedish Hand Forged Axes は技術的にハイテクを使っているわけでは無く、日本の技術で製造可能ですが、
斧製造の伝統、斧のデザイン、スウエーデン鋼を使いスウエーデンで手動鍛造し組み付け している から ブランドとしての価値があると思います。

 

連休なのに天気が悪くてどこにも行けません 暇なので長くなってしまいました、
長文を読んで頂き ありがとうございました。

以上は
Swedish Hand Forged Axes の製造 に対する私見、【備忘録】です。

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